うちは販売をやめて、修理だけで二十年やっています。父がそう決めました。時計を売る店は他にいくらでもある、直せる店は減っていく、というのが理由です。当時は思い切った判断だと思いましたが、結果的にその判断のおかげで、今も店が続いています。売るのをやめた年は売上が半分になったと聞いています。それでも戻さなかったのは、父なりに先を見ていたということなのだと思います。

修理は、話を聞くところから始まる

修理に来られる方は、まず時計の来歴を話されます。誰にもらったか、いつから使っているか、どこで止まったか。技術的にはほとんど関係のない情報ですが、聞かないと直す気になれません。直すかどうかを決めるのはこちらではなくお客さんなので、その判断材料として話が必要なのだと思っています。修理代が本体の値段を超えることもあります。それでも直すと言われる方は、たいてい最初の話の時点でそう決めています。

作業台。父が使っていたものをそのまま使っている

作業台は父のものをそのまま使っています。高さが私には少し合わないのですが、直すと道具の位置まで全部変わってしまう。慣れるほうが早いと思って、五年そのままです。父の代からのお客さんが来られたときに、台が同じだと安心されることがあるので、それも理由の一つになっています。店の中で変えたものと変えなかったものを並べてみると、変えなかったもののほうが多く残っています。

直せる店が近くにあると分かっていれば、人は物を長く使えるんです。

次の代のことは、まだ決まっていない

この仕事を私の代で終わらせるのか、誰かに渡すのかは決めていません。修理の技術は一年や二年では身につかないので、渡すなら早く決める必要があります。ただ、続けてほしいという理由だけで人を巻き込むのも違う気がしていて、そこで止まっています。この通りには、同じところで止まっている店が何軒かあるはずです。話し合ったことはありませんが、たぶんみんな同じことを考えていると思います。